こんにちは、人形屋ホンポの成嶋です。お雛様選びで最も重視される「お顔」。実はその表情、わずか数ミリの筆使いで「微笑み」にも「凛々しさ」にも変わるのをご存知ですか?今回は、職人が人形に命を吹き込む「開眼(かいげん)」の瞬間のドラマと、私たちが自社ブランド「ひなまり」で追求する現代の優しい表情の秘密についてお話しします。
「頭師」という専門職の世界
雛人形制作は完全分業制です。着物を着せる「着付師」に対し、お顔だけを専門に作る職人を「頭師(かしらし)」と呼びます。
伝統的な「桐塑頭(とうそがしら)」は、桐の粉と糊を練り固め、胡粉(貝殻の粉)を何度も塗り重ねて作られます。この工程だけで数ヶ月かかることも。
一方で、現代の主流は石膏ベースの頭ですが、仕上げの筆入れはやはり職人の手仕事。土台の形が同じでも、職人の手癖やその日の湿度によって、ふっくらとした温かみが出たり、シャープな気品が出たりと、微細な個性が生まれるのです。
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私たち監修者も、工房でその「お顔の原型」を選ぶ瞬間は、常に真剣勝負です。
表情を決める「墨」と「紅」
お顔の印象を決定づけるのは、眉、目、口のメイクアップです。
特に「紅(べに)」の差し方は重要です。下唇を少し厚くすれば幼く愛らしい表情に、口角をコンマ数ミリ上げれば微笑んでいるように見えます。
また、伝統的な京雛(きょうびな)に見られる、細い筆で何本も線を描いて目を表現する「笹目(ささめ)」という技法は、見る角度によって表情が変わる奥深さがあります。職人は息を止め、一筆入魂で線を引きます。失敗が許されない、極限の集中力が漂う瞬間です。
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この繊細な筆仕事こそが、大量生産品にはない「品格」を生み出す源泉なのです。
命が宿る「開眼」の瞬間
人形作りのクライマックス、それが「瞳」を入れる瞬間、いわゆる「開眼(かいげん)」です。
ガラスやプラスチックの義眼をはめ込む場合もあれば、筆で瞳を描き入れる場合もありますが、この瞬間に人形は単なる「物」から「人(カタシロ)」へと変わります。
職人の間では「瞳を入れると、人形が語りかけてくる」と言われます。黒目の位置がわずかに中心に寄れば愛らしく、外側に向けば大人っぽく。
私たちがお届けする人形も、検品の際に目が合う瞬間があります。「あ、この子は優しいお顔をしているな」と感じるその直感を、私は大切にしています。
令和のトレンド「ひなまり」
時代と共に、好まれるお顔も変化しています。かつては「切れ長の目ですまし顔」が美人画のようだと人気でしたが、現代は「丸顔でパッチリした目」の愛らしいお顔が主流です。
私が手掛けるオリジナルブランド「ひなまり」では、現代のリビングに飾っても怖くない、メイクも少しナチュラルで、微笑みをたたえた優しいお顔を職人にお願いしています。
「赤ちゃんのお顔に似ている」と言われるような、見る人を癒やす表情。
伝統技法を守りつつ、現代のママ・パパの感性に寄り添う「令和のお顔」を追求することも、私たちプロの使命だと考えています。
運命のお顔に出会うために
最後に、お顔選びのアドバイスを。
ネット通販やカタログで選ぶ際も、可能であれば画像を拡大して、じっと見つめてみてください。「目が合う」「なんだかほっとする」と感じる子が、あなたにとっての運命のお雛様です。
また、店舗で実物を見る際は、少し離れて見たり、しゃがんで下から見上げたりしてみてください。職人の計算により、飾った時に最も美しく見える角度があります。
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お顔は、お子様を一生見守るパートナーの顔。スペックや価格だけでなく、ぜひ「直感」を信じて選んであげてくださいね。


