創業1925年の挑戦|「バカだ」と言われてもネット通販を始めた理由と、守り抜く人形の本質

創業1925年の挑戦|「バカだ」と言われてもネット通販を始めた理由と、守り抜く人形の本質 その他

「お前はバカか?」業界の先輩方にそう叱責されながらも、私たちがネット通販に踏み切ったのは、ある寒い日に来店された一組のご家族がきっかけでした。創業1925年の老舗「人形屋ホンポ」が、なぜ業界のタブーを破り価格を公開したのか。そして、インテリア重視の現代において、私たちが葛藤しながらも守り続けたい「人形の本質」について、4代目の成嶋がお話しします。

きっかけは「寒い日の親子」への想い

寒い冬の日に人形店を訪れる親子連れと、それを迎える店主の温かい眼差し
20年前の伝統的な人形店での懐かしい情景。外の雪の降る寒い通りから、赤ちゃんを抱いた若い夫婦が入店してくる。20代の店主(日本人男性)が、心配りと温かさを持って彼らを見ている。背景には伝統的な雛人形が飾られている。店内の温かい照明が、外の冷たい冬の雰囲気と対照的

私が4代目を継いだ約20数年前、ある寒い冬の日のことです。小さなお子様を抱き、ご夫婦で震えながら来店されたお客様がいらっしゃいました。

せっかく足を運んでいただいたのに、限られた店舗スペースではご希望の商品をご案内できないこともあります。「こんな寒い中、何も得られずにお帰りいただくのは申し訳ない」。その一心で、私はインターネット上に商品カタログを作ることを決意しました。

当時はまだECサイトも黎明期。業界の先輩方からは「商品を公開したらライバルに真似される」「お前は本当にバカか」と猛反対を受けました。しかし、お客様の利便性を考えれば、事前に何があるか分かる状態にすることは必須だったのです。

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最初は画像だけの公開でしたが、「いくらですか?」という問い合わせが殺到。私は再び反対を押し切り、価格の公開にも踏み切りました。全ては「お客様が自宅でじっくり検討できるように」という、今の当たり前を作るための第一歩でした。

オートクチュールから「楽天市場」へ

初期のパソコンでネット通販の準備をする様子と、伝統と革新の融合イメージ
日本のEコマース黎明期の概念図。レトロなデスクトップパソコンの画面に、シンプルな人形のウェブページが表示されている。背景には、伝統的な和柄とデジタルのバイナリコードが融合し、伝統からデジタル革新への移行を象徴している。

価格を公開し、電話やFAXで注文を受けるようになると、今度は「振込方法は?」「配送先は?」とお一人お一人に合わせたオートクチュールのような対応が必要になりました。しかし、注文数が増えるにつれ、聞き間違いなどのミスが許されない状況に直面します。

そこで私たちは、当時スタートしたばかりの「楽天市場」に出店することを決断しました。システム化することで、正確かつ安全にお客様へお人形をお届けする体制を整えたのです。

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さらに大きな壁となったのが「エリア規制」でした。当時は久月や吉徳といった大手ブランド品は、地域ごとに取り扱い店が決まっており、ネットでの広域販売はタブーでした。私は人形屋ホンポとして粘り強く交渉し、大手ブランド品のネット掲載を解禁。これにより、不明瞭だった人形の価格が透明化され、お客様が適正価格で比較検討できる環境が整ったのです。

その後、人形業界で史上初の楽天市場「ショッピングオブザイヤー」を獲得することとなります。

現代の葛藤「39,800円の壁」と品質

伝統的な高品質な雛人形と、現代的な簡素化された雛人形の比較
分割構図の画像。左側には、精巧な十二単をまとった美しく高品質な伝統的雛人形。右側には、スタイリッシュだが細部が簡素化された現代的なコンパクト雛人形。虫眼鏡が着物の裾(すそ)部分にかざされており、職人技とボリュームの違いを強調している。左のお人形が20万円だとすると、右のお人形は10万円くらい。なのでケース飾りはとても簡素化されています。むしろ中身のお人形より外側のケースや舞台装置の方が高い場合も出てきています。

ネット通販が普及し、時代は変わりました。コロナ禍を経て、住環境の変化とともに「インテリアに合うおしゃれな雛人形」が求められるようになりました。

その中で台頭してきたのが、見た目を重視しつつコストを抑えた商品です。これらは一見美しいですが、ケースの奥行きを減らすために人形の裾(すそ)をカットしたり、手に持たないからと胴体の中身を簡素化したりしています。

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特に39,800円以下の価格帯では、こうした「見えない部分の省略」が進んでいます。私たち専門店としては、正直なところ「自信を持ってお出しできない」と取り扱いを躊躇した時期もありました。しかし、市場のシェアは確実にそこへ流れています。「プロとして、この現実にどう向き合うか」。それが今の私たちの最大のテーマです。

雛人形専門店として「正直」であること

職人が人形の着物を丁寧に整えている手元のクローズアップ
人形の着物を丁寧に整える職人の手のクローズアップ。生地の質感と複雑な細部に焦点が当てられている。照明は柔らかく敬意に満ちており、職人の魂と人形の「見えない品質」を伝えている。温かみのある黄金色。

安価でコンパクトな人形が悪いわけではありません。それぞれのライフスタイルに合った選択肢があることは素晴らしいことです。しかし、私が懸念するのは「お客様がその違いを知らずに選んでしまうこと」です。

なぜその価格なのか、どこが省略されているのか。私たちは専門店として、メリットだけでなくデメリットも包み隠さずお伝えしたいと考えています。

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裾の広がりや胴体の作りは、単なる装飾ではなく「豊かさ」の象徴でもあります。たとえ安価なラインナップであっても、私たちが扱う以上は、プロの目で「許容できる品質ライン」を見極め、納得して選んでいただける情報提供を徹底しています。それが、創業から変わらない「お客様への誠意」だと信じているからです。

これからのひな人形選びの基準

現代のリビングルームに調和して飾られた雛人形のある風景
現代的な家具と、上品に飾られた雛人形セットが調和した、モダンな日本のリビングルーム。窓から日差しが差し込み、人形を照らし出し、平和で幸せな家族の雰囲気を作り出している。人物は写っていないが、生活感と愛のある空間の存在感がある。

最後に、これからの人形選びについて提案させてください。スペックや価格、見た目の可愛さはもちろん重要ですが、そこに「作り手の想い」と「贈り主の願い」が重なるかどうかも大切にしていただきたいのです。

もし予算やスペースの都合でコンパクトなものを選ぶとしても、例えば「お顔だけは妥協しない」「着物の色味にはこだわりたい」など、一つだけ譲れないポイントを持ってみてください。

私たちは、伝統的な最高級品から、現代のライフスタイルに合わせた工夫を凝らした商品まで幅広く取り扱っていますが、そのすべてに「人形屋ホンポのフィルター」を通しています。「お前はバカだ」と言われても貫いた、お客様ファーストの精神で、あなたにとってのベストな一品を一緒に探させてください。

同価格帯のものであれば、確かな品質と安心できる雛人形をお約束します。

これからも皆さんからお勉強させていただきながら、今度はプロとしてより良い提案で皆様にお返しできるよう次の100年を挑戦していきます。

私の雛人形への想いを綴った歌をここに。
いつかとみっか(5月5日、3月3日の人形屋のおやじの歌)
Suno.comで曲を聴く

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